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| 熊本学園大学経済学部 編 『いま、学問がおもしろい サテライト講義 21講』 2,800円 ミネルヴァ書房 |
経済学部は、開設記念号を含めて10周年ごとに記念論文集を刊行してきました。これまで周年号は4冊にのぼります。従来の記念論集はわたしたち経済学部スタッフの専門論文で編集してきました。これはそれとして十分価値があるものです。ただ、今回40周年論集を上梓するにあたり、これまでの慣例をやぶってちょっと冒険をすることにしました。
経済の専門家だけしか読まない論文集ではなく、経済学部ではこんなことを教えている、学んでいるということを、一般の方々に伝えようと考えました。できれば高校生でもわかるような論集を作ろうと。
この論文集は、経済学部のスタッフの専門分野を特に予備知識を前提としなくても、高校生にでもわかるように“講義"するスタイルをとっています。どの講義から“聴いて"いただいても結構です。見出しをみて興味をいだかれた講義から“聴講"してください。
立場上、私はすべての“講義"を事前に目を通し、紹介文を書く役目を仰せつかったのですが、最初は正直困ったなと思いました。大学の事務的な仕事(雑用)が多いものですから。ところがそれぞれの講義を読み始めていくとこれが実に“おもしろい"。つい引き込まれてしまいました。こんなすばらしい先生方といつも一緒に仕事をしているんだなと、改めて感じ入りました。
ここに収めているのはいわゆる専門論文ではありませんが、それぞれに研究者のバックグラウンドや人柄が行間から垣間見られて予想以上の論集ができあがったと自負しています。経済学部のスタッフには経済学の研究者だけではなく、文学や歴史、語学、体育等の専門家もいます。経済学だけでなくさまざまな分野の論究が含まれたことで多様性が増し、多くの方の興味を引くことになるのではないかと期待しています。
そうはいっても、ガイドがないと迷子になるかもしれません。以下の講義がどのようなものであるかを私なりの視点で紹介しておきます。第I部では大学で学ぶ経済学のエッセンスを紹介します。第II部と第III部では身の回りの出来事や地域経済を経済学的な視点で論じています。第IV部では文学・歴史・語学の楽しみ方を伝えています。第V部ではさまざまな考え方の違いを知ることの大切さを学びます。以下の要約がそれぞれの講義のイントロダクションになっており、あなたの知的好奇心をくすぐり、読む気にさせることを願っています。

第1講 環境を守れば得をする?ー経済学を使って環境問題を解決するー
経済学は“インセンティブ(誘因・動機)”の学問とも言われます。世の中の経済・社会の中に“誘因”を組み込む事で望ましい経済社会を達成しようと試みます。環境税、排出権取引、ゴミの有料化の例をあげながら、なぜ経済学では“インセンティブ”を重視するのかを解き明かします。伊ヶ崎大理(現在日本女子大学)が担当しています。
第2講 ゲームを使って考えるーゲーミング・シミュレーションへの誘いー
経済学のような社会科学では“実験”ができないとよく言われました。しかし今ではゲーミングという手法を使うと、参加者の意思決定を考慮しながら社会全体の帰結を分析することが可能になったのです。トランプさえあればホルト&ローリーのゲームを実践することができます。大山佳三は「公共経済論」を担当しています。
第3講 熊本市の観光客についてのアンケート調査―調査方法と調査体験から―
以前「トリビアの泉」という人気TV番組がありました。その中に何件調査したら妥当な結果が得られるかという定番コーナーがありました。「全国の床屋さんに一番多く置いてある漫画本は何?」などです。このような問いに正確に答えるのが本講です。学生や一般の方々がアンケート調査を行おうとするときの格好の指南となること請け合いです。永井博は「統計学」を教えています。
第4講 夕張市の人口が半分になるって本当?―地域計量経済モデルへの招待―
経済学には計量経済学という分野があります。回帰分析や時系列分析を中心に普通は3年生以上で学びます。経済データの収集に始まり、経済モデルの作成、将来予測とパソコンをフル活用します。この講では夕張市の人口予測を例にあげながら計量経済分析の手ほどきをします。得られた推計式は良好です。田中利彦は「計量経済学」を担当しています。
第5講 株価は予測できか?―効率的市場仮説―
株価は予想できると思っている人が世の中には結構いるのではないでしょうか。罫線(けいせん)と呼ばれるグラフを描いて将来の株価を予測する方が結構います。しかし株価は「ランダムウォーク」という考えに従って動いているという有力な説があります。この説が正しければ、株価はだれも正しく予測できないのです。実際にはどうなのか。結論は本文の講義に譲りましょう。読んでからのお楽しみということで。笹山茂は「マクロ経済学」を担当しています。
第6講 企業の投資はどう決まるのか―資金調達・資産価格形成と経済―
国内総生産(GDP)を構成する最大項目は消費で、次が投資です。しかし景気の動向をまず左右するのは企業による投資活動です。投資を理解するには「現在価値」の考え方を学ぶことが必須です。将来あがることが予想される収益を現在時点の価値に計算し直します。「現在価値」を理解すればマクロ経済学は怖くない。朴哲洙は「マクロ経済学」を担当しています。

第7講 高校生の就職はどのようにして決まるのかー高校生の就職市場の特徴と課題―
大学では今、3年次での就職活動にそなえて1年生向けの「キャリア講座」を開設するのが普通になっています。就職後3年以内に会社をやめてしまう全国の中卒、高卒、大卒者の割合をとらえて「7・5・3」現象と呼びますが、熊本ではさらに厳しく「8・6・4」となっている現状が説明されます。キャリア教育の重要性が説かれます。荒井勝彦は「労働経済論」を担当しています。
第8講 食と農と環境を考えようー農業や農村のもつ5つの価値―
食品偽装など食の安全にかかわるニュースが毎年巷間をにぎわせています。本講では、食料と農業と自然・文化環境の間には互いに切っても切れない関係があることが指摘されます。著者はまず国内自給体制の確立を訴えます。我が国の穀物の自給率は合計で30%弱しかないことをみなさんはどうとらえるでしょうか。山内良一は「農業政策」を担当しています。
第9講 日本の人どうなる?―少子高齢化を考えるー
少子高齢化は最近の日本を表現する常套句(じょうとうく)になっています。このままのペースで進むと、日本の人口は2105年には4500万人余りまでに急減すると予測されています。日本と同じような状況に直面したスペインは外国人を労働者として積極的に受け入れるという選択をしました。さあ、どうする日本。考えてください。慶田収は「ミクロ経済学」を担当しています。
第10講 電子メディアの使われ方―共同利用と所有・アクセスー
インターネットは大学教育の中で最も活発に活用されていますが、デジタル情報との適切なつきあい方も問われています。コンピュータは個々人が「所有」する機器からネットの世界へつながる“どこでもドア”としての「端末」となっている姿が描かれます。このような時代こそ個人の頭脳を高めることが重要となります。中敷領孝能は「統計学」を担当しています。
第11講 私たちとレジャー・レクリエーションーユネスコ生涯教育論からー
大学での体育の講義や実技も一昔前と比べると様変わりしています。レクリエーション・インストラクターの資格もとれます。本講では、現代のレクリエーション運動の源流となっているのは1970年に策定された国連のユネスコによるレジャー憲章にあると説いています。井上弘人は「レクリエーション概論」を担当しています。
第12講 子どもたちはなぜ「学校」に通うようになったのか?―日本教育史の一コマ ー
日本で学校教育がスタートしたのは明治5年ですが、現在の義務教育が事実上定着したのは意外にも昭和の初めであったことが明かされます。実学教育の寺子屋と教養教育を目指す学校教育が対立関係にあったことも面白い。教育の歴史をたどることで今の大学教育のありかたを考える一助にしていただければ幸いです。軽部勝一郎は「教育原論」を担当しています。

第13講 「いも焼酎」は地域を変えられるかー地域産業変革の可能性―
本学には「焼酎」を経済の視点から分析する強力な研究グループがあります。著者もその1人です。第3次焼酎ブームを経て国民酒となった焼酎。原料生産から製造、蒸留粕の再生利用、焼酎蔵活用まで一貫してとらえる「焼酎造りからまちづくりへ」の論理の展開を味わってください。野間重光は「日本経済論」を担当しています。
第14講 バーボン・ウイスキー秘話 ―なぜその名を冠せられたのかー
この講を単なるバーボン・ウイスキーの起源を解き明かした歴史読み物と理解してはいけません。バーボン・ウイスキーという「ブランド」が如何に確立されたか、およびその過程を読み取ってください。それにしてもウイスキーの蘊蓄(うんちく)を傾けたい方には格好の素材を提供してくれます。境章は「情報メディア論」を担当しています。

第15講 賢治童話はおもしろいー宮沢賢治研究へのABC―
「注文の多い料理店」を素材にしてパズルを解くように文学作品を読み解くおもしろさを導いてくれます。さらに宮崎駿「となりのトトロ」の猫バス=「銀河鉄道の夜」の銀河鉄道= <風>論が展開されます。文学作品深読みの醍醐味を味わってください。きっとあなたは「賢治」を読みたくなるに違いありません。奥山文幸は「言語と文化」を担当しています。
第16講 文字から声の世界をさぐるー日本中世における文書と音声―
考古学者はモノを、文献史学者は文書(もんじょ)を発掘して研究を進めます。後者の立場から、わずかに残された文書をてがかりに残されてこなかった圧倒的な量の過去の人々の営み(声)を拾い上げようとする歴史学の研究手法を紹介します。日本史好きにはたまらない読み物となっています。小川弘和は「日本史概論」を担当しています。
第17講 分詞構文は難しくないー日本語から入ると意外と簡単―
英文法・英作文が苦手な方に朗報です。分詞構文が何かを知らなくてもかまいません。練習問題を示しながら具体的に英語を学ぶ手法を示してくれます。英語に自信のある方は後半のちょっと難しい実践練習問題に挑戦してください。日本語の“常識”が必要なのはいうまでもありませんが。吉川勝正は「英語」をS当しています。

第18講 「正しさ」は社会によってちがうのだろうかー価値観について倫理学的に考えるー
私たちは「海に浮かぶ離れ島だ」とみるか、「離れ島にみえるけれど、海の底では一つの地面でつながっている」ととらえるか。これが価値観をめぐる相対主義と普遍主義の違いだと明かします。さらに一つの地面とはどのようなものであるかを考えることが大切だと説きます。頭脳のトレーニングにもぜひ一読を。長友敬一は「倫理学概論」を担当しています。
第19講 かれらは文明人か野蛮人か?ーインディアスの征服と破壊の物語―
1500年前後スペイン人は、先住民インディオを「言語」と「宗教」を理由に「野蛮人」として征服を正当化しました。「野蛮」と「文明」は「力」で優位にある側によって造られることを歴史は示しています。この講は単なる歴史物語としてではなく現代の世界にも通じることを読み取ってください。村松茂美は「社会思想史」を講じています。
第20講 アメリカ人はなぜ銃を規制しないのか?―比較文化論の観点からー
経済学部には多くの外国国籍の専任教員がいます。熊本にいながら国際感覚を身につけることができるのです。アメリカ人が銃を規制しない根本は憲法にありますが、実はその憲法の背後にある思想は現在の軍事大国としてのアメリカを否定するものであるという非常に興味深い論考です。カーク・マスデンは「比較文化論」を講じています。
第21講 「金儲けは悪いことですかね?」にどう答える―近代資本主義における営利と生産力―
刺激的なタイトルです。金儲けと生産活動を自らの心の中で調和させるというは資本主義勃興期より続いている永遠のテーマなのです。ライブドア・村上ファンド事件を例に挙げながら、この問題を歴史的な観点から考察したのが本講です。営利が生産力から遊離して独走してしまったのが二人の悲劇だったのではないかと論じています。酒井重喜は「西洋経済史」を講じています。









